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Panel Discussion 01パネルディスカッション第一部:地域実践者に学ぶ

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農と食、そして地域の力。足元の宝を磨きあげよう

コーディネーター

画像:谷口正和

谷口正和マーケティングコンサルタント
京都府出身。ジャパンライフデザインシステムズ代表取締役社長。生命、生活、人生の在り方を問う「ライフデザイン」を企業理念にコンセプトプロデュースから企業戦略立案、地域活性計画まで幅広く活動。東京都市大学、立命館大学大学院などの教授も歴任し、マーケティング論、社会学を背景とした著作多数。日本デザインコンサルタント協会・副代表理事、日本デザイン機構理事等兼任。

オブザーバー

画像:谷口正和

阿部守一長野県知事
東京都出身。東京大学法学部卒業、自治省勤務の後、2001年長野県企画局長、同年副知事、07年横浜市副市長、その後内閣府勤務を経て10年長野県知事就任、14年再選され現在に至る。就任当初より「半農半X」など、自分らしい多様な働き方・暮らし方を創造する取組みを進める。

パネラー/五十音順

  • 画像:菊地栄

    菊地栄立教大学兼任講師
    東京都出身。世界各国の出産事情を長期取材し、マタニティ・コーディネーターとして講座等で指導。写真家としても活動し、ヨガ指導者資格も持つ。2007年第2回平塚らいてう賞・奨励賞受賞。48歳で立教大学大学院に入学。2013年茅野市に移住。現在、同大学で兼任講師(社会デザイン学)を務める。
  • 画像:北沢正和

    北沢正和農家レストラン「職人館」館主
    長野県出身。公務員として20余年勤務後、佐久市望月で古民家を再生し、1992年に蕎麦と創作料理の店「職人館」を開館。2016年農林水産省「料理マスターズ第1回シルバー賞」で全国5人の料理人受賞の1人に選ばれる。著書に『信州の手作り職人』など。
  • 画像:玉村豊男

    玉村豊男エッセイスト
    東京都出身。1991年に東部町(現:東御市)に移住し、ワイナリーを開拓。ヴィラデストワイナリー代表取締役社長。田舎暮らし「楽園信州」推進協議会名誉会長。長野県原産地呼称管理委員会会長。「おいしい信州ふーど(風土)」大使。『千曲川ワインバレー』など食全般に関する著書多数。
  • 画像:本柳寛人

    本柳寛人元阿智村地域おこし協力隊
    神奈川県出身。大学修了後、2011年に地域おこし協力隊として阿智村に移住。協力隊任期終了後、林業を生業としながら、農業や頼まれごとで生計を立てている。薪や炭など、自然エネルギーを取り入れた暮らしに挑戦中。

「『手ざわりのある暮らし』は、長野県の一番の売り物」

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谷口:人生100年という長寿社会においては、長く続けることを価値づける生き方、比類なく自ら突き抜けていく固有の生き方を、相互に支援し合い、楽しみに変えていく社会が視野におかれます。このような流れの中で、我々もまた、それを様々な事例から学んでいくのです。その意味でこの会議は、世界に対して重要なヒントを差し上げることになるでしょう。でははじめに、会議の原案を作られた玉村さんから、お話をいただきたいと思います。

農業をベースとしたライフスタイル

玉村:東御市の標高850mほどのところにワイナリーを開き、14年を迎えます。今ではワイン造りを志す人がたくさん集まってくるようになりました。おそらく数年以内に3つ4つと新しいワイナリーができるでしょう。小規模なワイナリーを成り立たせ、連帯していくような地域にしたいと思っています。
カリフォルニアのナパ・バレーでは小さなワイナリーが700軒も集まっているように、大きなワイナリー1軒ではなく、小さなワイナリーがたくさん集まったほうがよいのです。すると、訪れる人はそこに滞在をし、ワインをあちこち味見しながら楽しむワイナリー観光ができます。また、小さなワイナリーができれば、そこにプチホテルやペンション、あるいはレストランができ、ワインを中心に地域が活性化していきます。このように農業をベースとしたライフスタイルが広がっていくことを望んでいます。

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農業をしながら暮らすライフスタイルは、言ってみれば「産業革命以前のライフスタイル」です。それまでは家内工業で、家族全員で一つの仕事をしていたのが、大量生産のために大きな工場ができ、そこにサラリーマンとして父親が働きにいくスタイルになったのです。何よりも大きな変化は、これによって暮らす場と働く場が離れてしまったことです。今、働き方革命とかワークライフバランスという言葉をよく聞きますが、農業しながら暮らしていれば、本来は自然とバランスがとれるものです。
企業社会が最も高度に発達してきた日本で今、かつての働き方を取り戻そうという話が出てきています。インターネットがありますから、基本的にはどこでも仕事ができます。田舎に住みながらインターネットで連絡を取り合い、たまに都会に行く暮らしは誰もができるようになったのに、まだまだ実現していません。
長野県は自然豊かでよい条件に恵まれています。エネルギーを自給したい人には太陽光や小水力、バイオマスがある。米や野菜も自給できます。東京から来た人は、自分で作った野菜を毎日食べ、そばを打って食べる暮らしを見て、「贅沢な暮らし」と言います。長野の人はその価値に気づいていないかもしれませんが、このライフスタイルこそが長野県の一番の売り物ではないでしょうか。

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金融資本主義によって、誰がどこで作ったか分からないような物を食べたり着たりするような社会となった今、「手ざわりのある暮らし」が見直されています。自然の中で、ワインや野菜をつくり、自分の好きな暮らしをしながら楽しく働く。そして、地域の中である程度は経済がまわり、訪れた人たちと対等な関係で交流していく。ワインをキーワードにしながら、お互いの生活をリスペクトし合うような生活観光を作っていきたいと思っています。

谷口:お金を稼ぐだけの働き方から、自立することを目指す働き方をすること。消費だけでなく生産に関与することで、未来の安心が手に入るのではないか。こういうお話をいただきました。続いて菊地さん、お願いします。