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Panel Discussion 01パネルディスカッション第一部:地域実践者に学ぶ

「100の生業、"百姓"として日々を生きる」

パネルディスカッション第一部イメージ

足るを知る暮らし

菊地:私は東京生まれで、5年前に蓼科に引っ越してきました。移住した一番のきっかけは、東日本大震災です。震災は、私のそれまでの価値観を180度変える出来事でした。
ここで、夏には畑で野菜を作り、冬は薪を割って暖をとるといった生活を送っています。仕事のスタイルは、5分の1は農業をやり、あとの5分の1ずつはヨガを教えたり、大学で講師をしたり、写真を撮ったりしています。私の恩師である哲学者の内山節先生の言葉を借りると、こういう生き方を、100の生業という意味から「百姓」と言うようです。

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自然の中で暮らすようになって、身体で感じることが多くなりました。庭に来たカモシカと目が合ったり、傍らに咲く花に気づいたり、雲が浮かんでいるのを見上げたり。あるいは梅を漬けたり、オレンジでマーマレードを作ったり。質素ですが、こういう生活をしていると不足感がないのです。「足りている」ということですね。社会を変えようとかでなく、ものの見方や角度を変えただけで、自分が「足りている」ことが分かると身に染みて感じています。

谷口:自然と共生し、非常に感覚的なものを取り戻していく暮らし。その中で、自身が「百姓」として様々な役割を引き受けていく。それが「足るを知る」ことにもつながるということですね。重要なご指摘です。続いて、北沢さんお願いします。

「健康で生きる源泉は山にある」

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信州の山は、宝の山

北沢:佐久の山の中にある「職人館」という農家レストランで、そばを主体に地域内で恵まれた食材で料理を作っています。
いつも思うのは、どんな物でも関わり方を深くすれば「お宝」になるし、関わり方が薄ければ「こんな程度の物」になります。例えば雑草1本でも、邪魔だと思えば刈り取らなければいけないただの雑草ですけど、関わり方を深くすると料理のアクセントにもなります。どうか皆さん、足元にある物に目を向けてみてください。「どうやったら素敵になるか」という視点で見ると、普段は踏みつけているような雑草でも、素敵な宝物になるのです。

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レストランでは誰もが見ている当たり前の食材を使っていますが、その当たり前の物同士を、自分なりの感性で組み合わせていくと、人が喜んでくれる物になります。今、全国の山はほとんど振り向きもされずに荒れ放題のところが多くなっていますが、素敵な物があるところは山だと思っています。健康に生きるために食や料理はあります。その食材、つまり健康で生きる源泉は山にあるのです。もう一度山を見つめ直すと、本当にこれから宝の山になると思います。
先ほど阿部知事がガンジーの話をされました。ガンジーは、「涼しい風に風鈴が鳴るような爽やかな生き方が素敵だ」と言っています。皆さんも足元にある素敵な物を見つけて、どうぞ爽やかに生きてください。

谷口:我々は、ややもすると「手元にない」ものを求めて探しに行くことがありますが、もうすでに十二分に財を預かっている。足元には青い鳥がいるというお話をしてくださいました。次は本柳さん、どうぞ。