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Keynote Speach基調講演:しあわせな社会をどうデザインするか

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講師

画像:寺島実郎

寺島実郎(一財)日本総合研究所会長
1947年北海道出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授等を経て現職。多摩大学学長も務める。国交省・国土審議会計画部会委員、21世紀自動車社会の未来に関する体系的研究委員会座長、経産省・資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員等歴任。

「高齢化も長野県と東京とではまるで意味が違う」

幸福県であり日本の希望である

本日の基調講演では、ライフスタイルデザインというコンセプトについて、さらに展開して発展するように、私なりの視点で話を深めていくことが役割と思っています。
日本総合研究所では「全47都道府県幸福度ランキング」という分析を三度にわたって実施してきましたが、長野県は第1回が1位、最新の調査(2016年版)でも4位でした。これは、人口の増加率や1人当たりの県民所得など5つの基本指標と、健康、文化、仕事、生活、教育の5分野の指標など、多面的(2016年は65の指標)に分析してランク付けしたものですが、常にトップ5に入っています。
長野県では平均寿命が男女共に日本一。もちろん、長生きすればしあわせということではありませんが、長く生きられるという環境があることは一つのポイントです。これは、減塩など県民運動を通じて努力してきた結果でもあります。今後の日本の幸福にまで関わる重要なファクターが長野県にあるといっても過言ではありません。

「異次元の高齢化」のインパクト

幸福について議論するにあたって、今自分たちが生きている時代を的確に認識することが重要です。その一つに「異次元の高齢化」があります。「少子高齢化」は今の時代、国や県の報告書で枕詞のように使われる言葉であり、誰でも知っていると思われがちですが、本当の意味でのことの重大さを理解しているかは疑問です。

【表1】日本の総人口・65歳以上人口の割合の推移

日本の総人口・65歳以上人口の割合の推移(表1)を見ると、日本の人口が1億人を超したのが1966年。その後、2008年にピークアウトし、2016年の段階で100万人以上減っています。100万都市が一つ消えたことになり驚きを覚えますが、この勢いで人口がどんどん減少しているのです。
さらに、2048年には1億人を切ると言われているのですが、ここで語らなければならないのが「異次元の高齢化」という話です。1966年に1億人を超えたときは65歳以上の人口比重は7%に満たない数値で、約700万人でした。ところが、1億人を割ると予想される2048年には約4000万人にも膨れ上がると言われています。1億人の中に占める65歳以上の比率がまるで違うのです。
ここで申し上げておきたいことは、長野県の高齢化と都会の高齢化、つまり、東京など首都圏の高齢化とでは、まるで意味が違うということです。よく、東京に文化などのインフラが集中しており、地方には何もないという意見が聞こえてきますが、私は実は違うと考えております。

【表2】国道16号沿いの団地

昭和20年代の前半に生まれた我々の世代は、高度成長期という時代を突き抜け、1980年代の後半にバブルを経験しました。表2を見ていただきたいのですが、東京をベルトのように取り巻いている国道16号線があります。これに沿って圏央道という高速道路が走っています。まさに東京に東京にと、人口と産業を集積させてきた戦後日本の復興成長を象徴するエリアです。
このエリアは公団住宅が集中している場所で、地方から東京の大学に進学し、東京の企業に就職し、結婚してここで暮らすことが豊かさの証でした。しかし、サラリーマンの成功モデルと呼ばれたこの地は今、大きな問題に直面しています。

「20世紀的豊かな」の先の“孤独”

豊かさの象徴だった国道16号線の暮らしも、働いていた世代がこぞって定年を迎え、急速に高齢化しています。表3で記されているように、日本の世帯構造がものすごい勢いで単身化しています。
かつては核家族という言葉がありました。新中間層、ニューファミリーという言葉で、核家族こそが戦後デモクラシーを支えていくと言われていました。なぜなら地方の人間関係の束縛から解放され、東京で暮らすということは、1980年頃の日本における新しいライフスタイルのあり方でした。ところが時を重ね、これらの人たちが高齢者となり急速に単身化しています。1980年頃は、単身世帯、母子家庭、父子家庭、夫婦のみ世帯の合計は38%です。このうち、単身世帯は2割もありませんでしたが、今は単身世帯だけで3分の1以上です。

【表3】世帯構造の変化

さらに時間の経過に伴い単身化は進みます。今は、夫婦のみだけれども、どちらかが亡くなったりしたらすぐに単身化する。母子家庭、父子家庭も、子どもが大きくなって出ていったら、急速に単身化するということなのです。
また、以前、「猛烈サラリーマン」という言葉がありましたが、この世代の多くの男性はコミュニティ基盤を失ってしまっています。女性はそれなりに地域に根ざして生活していますから、地方出身者でも地域に入り込めています。しかし、男性は職場から自宅に寝るために帰っていただけで、地域の付き合いをしてこなかったので、いざ会社を定年退職してしまうと、自分は地域に何の基盤のない存在であると痛感することになります。